職人技が光る、富士山をかたどったグラス。“その偽物”が通販サイトで公然と販売されています。取材を進めると、中国企業の影が浮かび上がりました。
底の部分に富士山がデザインされた「富士山グラス」。1個5500円と決して安くはないですが、これまでに70万個販売された人気の商品です。今、このグラスの偽物が出回っているといいます。
岐阜県に住むAさん。去年夏ごろ、SNSの広告でたまたま目にした富士山がデザインされたグラスを衝動買いしました。
Aさん
「シンプルで、富士山の光が照りかえっていていい感じに写真写っていて、これ素敵だなと思って。値段見て、3～4000円だったので、1個くらい買ってもいいかと思い、すぐ買った」
しかし、購入のボタンを押してまもなく、偽物だと気づいたといいます。
Aさん
「サイトの下に連なるツイートが『これは偽物ですよ』。みんなが書いてるわけですよ。これは完全にやられたなと思って」
Aさんが購入した偽物の「富士山グラス」。SNS上には「偽物」「詐欺だ」「写真と全然違う」といった書き込みが数多く上がっています。Aさんが利用したとみられる通販サイトを見てみると…
記者
「現在、大幅な値下げをやっているようで、2点で5390円となっています」
サイトには、グラスの底にデザインされた富士山が注いだ飲み物の色に変わる様子のほか、本物の富士山グラスの写真や動画が許可なく掲載されています。
取材班も、このサイトで販売されているグラスを購入してみました。
記者
「本来ならば納品書や証明書などの書類が入っているのですが、中は空っぽですね」
このグラスは本物の富士山グラスと何らかの関係があるのでしょうか。
本物の「富士山グラス」を作っている田島硝子。「富士山グラス」は、すべて手作りです。グラスの側面の桜の模様も一つ一つ手作業で行われ、熟練した職人の技が必要だといいます。社長に通販サイトで購入したグラスをみてもらうと…
田島硝子 田嶌大輔社長
「（偽物は）似て非なる物っていうよりは、うちらの世界からすると全くの別物ぐらい違う」
本物と偽物のグラスを比べると、本物の方は富士山が繊細に表現されています。一方で偽物の方は凸凹が少なく、のっぺりしています。見比べると違いは明らかです。さらに、側面にある桜の模様。偽物はとても桜の花びらには見えません。
田島硝子 田嶌大輔社長
「うちの富士山グラスを知らない人はこれを手に取った時に、田島硝子ってこういう物を作っているんだと、こんなひどいものが今ネット場で評判なんだ、そう思われたら本当につらいです」
しかし、偽物とは全く関係がない田島硝子にも、苦情がたびたび寄せられています。特に、2月23日の「富士山の日」前後には苦情が殺到。
田島硝子 田嶌大輔社長
「1日100件くらいは（苦情が）来ていたかもしれない。極論、『お前のところがしっかりやっていないから、おれが騙されたんじゃないか』という問い合わせ」
田島硝子はホームページで偽物を買わないよう注意喚起していますが、偽物を販売するサイトは次々登場するため、打つ手はないといいます。
では、偽物の富士山グラスはどのような企業が販売しているのか。偽物の富士山グラスを販売する通販サイトに連絡すると…
「電話は修理中です。使用できない可能性があります。住所は香港九龍のビル12階です」
通販サイトの運営企業は中国の企業で、本社は香港にあるといいます。そこで向かったのは、香港の繁華街にある雑居ビル。フロアを確認しても、それらしき会社は見当たりません。
取材班
「隣の会社は日本商品を販売していますか？」
ビル入居者
「よくわからないけど、昔はカプセルトイの器材を販売していたよ」
取材班
「お酒のグラスのようなものは見たことある？」
ビル入居者
「ないですね」
取材班
「このグラスのような物を販売している？」
ビル入居者
「わかりません」
ビルの管理会社にも確認しましたが、結局、通販サイトの運営企業はこのビルに存在しませんでした。
泣き寝入りを強いられている田島硝子。偽物の富士山グラスは、今も販売されています。
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